水俣病を知る

水俣病とは?

水俣病とは、チッソ株式会社が排出した工場廃液に含まれるメチル水銀(有機水銀の一種)によって汚染された魚介類を摂取することで起こる健康障害のことをいいます。
水俣病はこのように、企業が排出した工場廃液が汚染原因となっている点で、単なる有機水銀中毒症とは区別され、公害病の一つとして扱われています。

水俣病の原因物質であるメチル水銀は、体内に摂取されると主に脳細胞に作用し、様々な障害を与えました。
発生当初は、手足が曲がったりけいれんを起こしたり錯乱状態となり発病から数週間で亡くなってしまう重症の患者も多数いました。

今現在、水俣病と診断される患者の多くは、以下のような様々な症状や日常生活の不便を抱えています。実際の裁判で苦しい症状や心情を訴えた水俣病被害者の声はこちらを御覧ください。

  • 手足の先がしびれる。怪我をしても痛くない。やけどをしても熱くない。
  • 手の感覚がなく物を落としてしまう。字を書けない。
  • 手がふるえて,ボタンをかけられない。
  • まわりが見えにくくなり,ふすまや壁にぶつかる。足下が見えなくて,階段で転倒する。
  • つまずきやすい。ふらつく。
  • 舌が回らず言葉がスムーズに出ない。
  • 人の言うことが聞き取れない。声をかけられても気がつかない。
  • 耳鳴りがひどくて夜眠れない。
  • 何を食べても味がせずまずい。料理を作ると味付けが濃いと指摘される。
  • 手や足がつる(こむらがえり,からすまがり)。
  • 頭が激しく痛む。

水俣病被害の発生

1950(昭和25)年ころから、水俣湾沿岸地域で魚が大量に浮上したり、猫が狂い死にするなどの現象が見られるようになりました。
当初、原因は分からず、奇病や伝染病として地元では怖れられていました。

1956(昭和31)年5月1日、チッソ株式会社(当時の商号「新日本窒素肥料株式会社」)水俣工場付属病院長が、原因不明の中枢神経疾患が発生したことを水俣保健所に届け出ました。この日が、水俣病の公式確認の日にあたります。

当時、水俣病の原因となるメチル水銀は、チッソ水俣工場で化学製品の原料(アセトアルデヒド)を製造する工程で生成され、それが工場廃水に含まれた状態で不知火海に排出されていました。不知火海に流されたメチル水銀は、食物連鎖を通じて魚介類の体内で蓄積されていき、その汚染された魚介類を地域住民がたくさん食べたことによって、水俣病という深刻な公害病が広がることとなりました。

メチル水銀による汚染は、老若男女を問わず地域住民のすべてに及び、さらには、未だ生まれていない胎児にまで被害を及ぼしたのです。

原因企業の責任

チッソは、メチル水銀を含んだ廃液をそのまま海に流しました。利潤のみを追い求め、工場廃液を排出し続けた結果、水俣病患者の大量発生を招きました。
チッソのこのような行いに明らかな過失があることは、裁判所においてもはっきりと認められました。
チッソの責任は、単なる過失にとどまるものではありません。
チッソはこれまでに様々な悪質な行為を行ってきました。そのうち一部を紹介します。

猫実験

チッソは、工場廃液をかけたエサを猫に与え続ける実験を行いました。
その結果、猫が水俣病を発症し工場廃液が原因だと判明しました。
しかし、チッソは「猫に水俣病を発症していない」と嘘の結果を発表しました。

工場廃液提出拒否

水俣病の原因を調査していた熊大研究班がチッソに対して工場廃液の調査を何度も求めましたが、チッソは拒否しました。

排水口の変更

水俣湾周辺に重症患者が多発していたころ、当時水俣湾に廃液を垂れ流していたチッソは、排水口を不知火海に面した水俣川河口付近にこっそり変えました。
その結果、不知火海全域に被害が広まってしまいました。

サイクレーターによるごまかし

チッソは、浄化槽と称してサイクレーターという装置を設置し、工場廃液は人が飲んでも健康に影響がないと宣伝しました。
さらに、チッソの当時の社長は熊本県知事らを招いたサイクレーターの披露会で、ただの水をサイクレーターを通した廃液と説明して飲んで見せました。

見舞金契約

年の瀬も迫った1959(昭和34)年12月30日、チッソと一部の患者家族との間で、いわゆる見舞金契約が締結されました。
この見舞金契約はわずかな補償と引き換えに将来新たな補償金の要求は一切行わないという内容でした。
この見舞金契約は被害者の窮状と孤立に乗じて、被害者に無理矢理押しつけられたものといえます。
この見舞金契約は、後の裁判(水俣病第1次訴訟熊本地裁判決)において、公序良俗に反し無効と断罪されました。

国と熊本県の責任

国及び熊本県の責任(国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任)については、すでに最高裁判所の2004(平成16)年10月15日判決により確定しています。

では、実際に廃液を排出したわけではない国や熊本県が、水俣病被害者に対して賠償責任を負うのはなぜでしょうか?

国や熊本県は、チッソの工場廃液の排出を止める規制権限を持っていました。
しかも、水俣病の原因はチッソの廃液である可能性が高く、水俣病患者が次々に発生していたことからすれば、国や熊本県は、権限を使うべきだったといえます。
しかし、国や熊本県はその権限を使わず廃液の垂れ流しを放置しました。
そのため、多くの被害者を生んだ責任があります。