1.水俣病発生・拡大の責任
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1-1.水俣病の発生・拡大の責任は誰にあるのですか?
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チッソ株式会社(チッソ)、国、熊本県です。
チッソには水俣病の原因物質であるメチル水銀(有機水銀の一種)を含む工場排水を流したことに基づく責任、国、熊本県にはチッソの工場排水を規制する規制権限を行使しなかったことに基づく責任があることが裁判で確定しています。
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1-2.チッソは今どうなっているのですか?
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チッソについては、2009(平成21)年7月に成立した水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法(水俣病特措法)に基づき、2011(平成23)年1月にJNC株式会社が設立され、2011(平成23)年3月にはチッソからJNC株式会社に対して事業譲渡が行われました。そして、水俣病特措法によれば、JNC株式会社は水俣病の損害賠償債務を引き継がず、チッソはいずれ消滅する予定とされています(いわゆる「チッソの分社化」)。
今後、チッソが消滅してしまえば、被害者に対して賠償を行う企業がいなくなるおそれがあります。
私たちは、これからもチッソが加害企業として水俣病の損害賠償責任を全うしていくことを強く求めていきます。
2.水俣病の補償制度
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2-1.行政認定制度とは何ですか?
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公害健康被害補償法に基づき、水俣病認定審査会が行っている、水俣病の行政認定制度のことです。1977(昭和52)年に、環境庁が「52年判断条件」と呼ばれるそれまでよりも厳しい判断基準を一方的に決定したため、その後、棄却処分(水俣病と認定しないこと)が相次ぎました。
2013(平成25)年4月16日に、最高裁が「52年判断条件」にあてはまらない未認定患者を水俣病と認めました。
にもかかわらず、国は、現在でも「52年判断条件」に固執しています。そのため、水俣病の症状に苦しむ多くの患者が認定を受けられず、放置されているという問題は解決されていません。
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2-2.水俣病被害者を救済する法律はないのですか?
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行政認定制度を定めた法律として公害健康被害補償法があります。しかし、この法律に基づく行政認定制度は、Q2-1のとおり、現在機能不全に陥っています。
それとは別に、2009(平成21)年7月15日に一時金等を定めた水俣病特措法が成立しました。しかし、国が2012(平成24)年7月末に水俣病特措法に基づく救済申請の受付を一方的に締め切ったため、多くの未救済の被害者が取り残されることとなりました。
3.水俣病の裁判の歴史
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3-1.水俣病は過去に裁判になっていませんでしたか?
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刑事裁判や行政認定に対する不服審査、国家賠償請求など、全国で多くの裁判になりました。
これまでの裁判として、水俣病第一次訴訟、水俣病第二次訴訟、水俣病第三次訴訟、水俣病関西訴訟、ノーモア・ミナマタ訴訟などがあります。
4.水俣病の現在
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4-1.過去の裁判で決着したのではないのですか?
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裁判の効力は原則として裁判に参加した当事者にしか及びません。ですから、過去の水俣病裁判で救済されたのは、その裁判に参加した人たちだけです。
そのため、未だに救済されず、水俣病の症状で苦しんでいる被害者がたくさん残されており、そのような被害者が今回裁判に立ち上がりました。
私たちは、今回の裁判が終わった後、また被害者が出てきたときに、その人たちが速やかに救済を受けられるような司法救済制度の創設も目指しています。
すべての水俣病被害者が救済を受けていない現状では、水俣病問題は決着したとは言えません。
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4-2.どうして今になって救済を求めているのですか?
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救済を求めるのに手を挙げるのが今にならざるを得なかったのには様々な理由があります。
たとえば、原告の中には、医師の診断を受けるまではまさか自分が水俣病だとは思っていなかったという人がたくさんいます。
水俣病の主な症状は、感覚障害、運動失調、言語障害等といったもので、医師の診断を受けて、水俣病と診断されるまでは、自分が水俣病であることを自覚できないことが多いのです。
また、差別を恐れて、手を挙げられなかった人たちもいます。
過去には、結婚させない、村八分にする等といった激しい差別がおこりました。
現在でもそのような差別は残っており、差別を受けることを恐れて、声を上げられなかったのです。
さらに、チッソの城下町である水俣周辺地域では、本人や親戚がチッソとの何らかの関わり(従業員、取引先)をもっていることが多く、チッソや親戚などへの気兼ねから、声を上げにくい状況に置かれているのです。
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4-3.原告になっている人はどのような人ですか?
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水俣病であると認められるためには、①曝露と②症状の2つの要件を充たす必要があります。
①曝露とは、チッソの排水によってメチル水銀に汚染された不知火海産の魚介類を直接または間接に摂取した(食べた)ことをいいます。
②症状とは、感覚障害、運動失調、言語障害等が認められることをいいます。
ノーモア・ミナマタ第2次訴訟では、原告希望者について、裁判を起こす前に、それぞれの要件の有無を確認しています。
そして、2つの要件を充たすと判断された場合、原告として裁判に参加してもらっています。
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4-4.原告の見た目は普通ですけど,本当に水俣病ですか?
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水俣病の症状は、メチル水銀の摂取量、摂取の経緯、個人差等の諸事情によって、必ずしも同一の症状を呈するわけではありません。
発生初期に見られた急性劇症型の例から徐々に進行する例や軽症例まで様々なものがあり、外見から分かるものばかりではありません。
たとえば、水俣病の一症状である感覚障害は、医師の慎重な診断によって所見がとられることになります。
ノーモア・ミナマタ第2次訴訟の原告は、全員、裁判を起こす前に医師によって水俣病の症状があると診断されています。
5.ノーモア・ミナマタ第2次訴訟の概要
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5-1.裁判では誰を訴えているのですか?
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訴えている相手(被告)は、国、熊本県、チッソの3者です。
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5-2.裁判では何を求めているのですか?
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裁判では、一時金450万円のみを求めていますが、医療費や療養手当の補償も必要だと考えています。また、すべての被害者救済のために、司法救済制度の確立を求めています。
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5-3.裁判しないと水俣病と認められないのですか?
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そうです、残念ながら。
行政認定制度は、長年の間、機能不全に陥っています。
また、水俣病特措法も、国が2012(平成24)年7月末に水俣病特措法の申請受付を一方的に締め切ったことで、多くの未救済被害者が取り残されました。
また、申請に間に合った多くの方についても、国は、救済の対象とせず、切り捨てました。
このように、国は、加害者であるにもかかわらず、救済を求める被害者の声を無視し続けているのが現状です。
以上のとおり、加害者である国や熊本が被害者を選別する制度自体に限界があります。
そこで、公平中立な第三者である裁判所に、水俣病であることを認めてもらう必要があり、裁判を起こすこととしたのです。
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5-4.裁判するのにはお金がかかるのではないですか?
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経済的な理由で正当な主張を諦めることがないように、なるべくご負担をおかけしないようにしています。
詳しくは、当弁護団、原告団にお問い合わせください。
6.水俣病被害者の実態
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6-1.私にも手足のしびれ等の症状があるのですが?
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水俣病の特徴的な症状として,手足のしびれ・口周囲のマヒ・耳鳴り・こむら返り等が上げられます。
具体的には,手足がいつもジンジンしている,手袋をはめているような感じで箸などを落としやすい,家の中の何もないところでよくつまづく,お風呂の湯加減をみるために手をいれても熱さを感じない,家族に料理の味がおかしいと言われるようになった,セミの鳴いているような耳鳴りがする,毎日のように手足にこむら返り(からすまがり)が起こる等の症状がよく訴えられる症状です。
これらの症状に思い当たる場合は水俣病の可能性があります。
水俣病かどうかの正確な診断を受けるには水俣病をよく知る医師の診察が必要です。
まずは水俣病不知火患者会にご連絡下さい。
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6-2.熊本県・鹿児島県外にも水俣病の人がいるのはなぜですか?
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多くの方が、就職や進学、結婚などを機に、県外に転出しました。
その方達は、熊本・鹿児島から遠く離れていたために水俣病についての情報に触れることが少なく、ご自分の健康状態の悪化が水俣病のせいであることも知らないまま長年過ごされてきました。
このような方々が、やっとご自分が水俣病であることを知り、手を挙げ始められたのです。
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6-3.新潟に水俣病の人がたくさんいるのはなぜですか?
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新潟県の阿賀野川流域でも、昭和電工の排水が原因で水俣病が発生しました。これが新潟水俣病とよばれる公害です。
加害企業こそ異なりますが、その発症の経緯及び原因物質、病態は共通しており、新潟水俣病は第2水俣病とも言われています。
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6-4.若い人に水俣病患者はいますか?
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チッソや国・熊本県は、昭和44年1月以降に出生した人を原則として水俣病として認めていません。
しかし、水俣病に詳しい医師の診断の結果、昭和44年1月以降に出生した方々の中にも水俣病の症状が現れている人が多数いることがわかっています。
このような事実からすれば、昭和44年1月以降出生の方々の中にも水俣病の被害者が存在することは明らかです。
7.解決のために
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7-1.どうなれば真の解決といえますか
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被害者の立場からは、「すべての水俣病被害者の救済」が必要です。
「救済」とは十分な被害補償、具体的には一時金、医療費、療養手当の3点セットのことです。その他、真相解明、加害者による謝罪、再発防止策なども必要です。
さらに、地域住民、地域社会の立場からは、環境復元、差別偏見の根絶、もやい直しなどが必要です。
ただし、加害者(チッソ、国、熊本県)が、被害者補償に取り組まずに幕引きすることを狙って、「残った課題は『もやい直し*』だけ」と言う傾向もあるので、それには注意しなければなりません。
*人と人との関係や地域のつながりを再構築すること
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7-2.真の解決のカギは何でしょうか?
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被害の全貌と原因を把握してこそ真の解決が可能です。
不知火海沿岸地域では全住民の健康調査が未だに行われておりません。
この全住民の健康調査が行われることが、真の解決のカギになるでしょう。
